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⒐セオドア様の事情

مؤلف: 月山 歩
last update تاريخ النشر: 2025-10-16 15:03:02

「セオドア様、お呼びでしょうか?」

 カレンを寝かしつけ、今日を終わりたかったのに、彼は私を呼び出さずにいられないらしい。

「そこに座ってくれ。」

「はい。」

 彼の執務室に入ると、深くソファにもたれるセオドア様の姿があった。

 私が向かいのソファに座ると、セオドア様はワグナーに目配せをして、二人きりになるとすぐに問いかけた。

「さっきのカレンの態度はどういうことだ?」

 セオドア様の声には、苛立ちが混じっていて、滅多に感情を表に出さない彼が、明らかに怒っているのがわかる。

 前世では、彼がこんなに感情を露わにするところを見たことがなかったし、セオドア様の怒る姿も、苛立つ声も知らなかった。

 彼には、いつも静かな理性しかないと思っていたし、こんな顔を一度も見たことがなかった。

 私は初めて知る彼の表情に気を取られ、問いへの反応が遅れる。

 すると、セオドア様はさらに言葉を重ねる。

「聞こえているかい、ジャスミン?」

「あっ、はい、すみません。」

「どうして僕はカレンに嫌われたんだ?」

 鋭い視線がまっすぐに刺さる。

 私は深く息を吸い、落ち着いた声で答えた。

「それは、セオドア様が女性をエスコートしてる姿をカレン様が見てしまって嫌な思いをした後に、その女性の香水の香りをまとって、食堂にいらしたからです。」

「香水の香り?」

「はい。」

「それは子供にとって不快なのか?」

「はい、カレン様は嫌がってました。」 

「嫌な匂いではないはずだが?」

 セオドア様は納得がいかないとばかりに、険しい表情で質問を重ねる。

 初めての衝突に怯みそうになるけれど、彼が理解しようとしているんだから、ちゃんと、カレンの思いを伝えなくっちゃ。

「匂いが気に食わないのでは無く、セオドア様から、女性の存在を感じ取ってしまったのです。

 カレン様は、あなたがその女性と再婚するかもしれないと、不安に思っているようです。」

「なるほど。

 だが、カレンとは誰とも再婚はしないと約束しているはずなんだが。」

「はい、伺いました。」

「理解しているなら、あの子が不安に思う必要はない。」

「多分、セオドア様を信じていても、不安なんですよ。

 それに、父親に近づく女性を見て嫌な気持ちになるのは仕方がありません。」

「そんなものか?」

「はい。

 その女性にセオドア様を奪われるのではないかと、心配しているのです。

 カレン様にとって、頼れる家族はセオドア様だけなのですから。」

 セオドア様はしばらく黙り込み、指で額を押さえた。

「子供心は難しいな。」

「いえ、その気持ちは子供だけではありません。

 誰かを想っているなら、その方に好意のある身内以外の異性が近づくだけで、胸がざわつくものです。」

 セオドア様は小さく息を吐き、やや苦笑した。

 その顔には、少しだけ疲れがにじんでいた。

「その気持ちはわかるが、僕の場合は王家を守る保守派の思惑が、そうさせているんだ。

 息がかかった女性が、僕を引き込みたくて変わるがわるやって来る。

 女に溺れた男には、女を当てがえばなびくと、彼らは思っているのさ。」

「そんな。」

「当然の結果さ。

 僕は元は王家側だったのに、保守派の意向に背き、ジュリアと結婚したことで教会の支持者になったと思われている。

 ブライトン家には、王国に影響を与えることができるほど財力があってね。

 それを手放したくないのだろう。

 だから、保守派の女性が常に押しかけて来て、僕と関係を持とうとする。

 あわよくば再婚できたら、王家の庇護を永久に得ることができるからね。

 ジュリアが生きていた頃は、愛人役を作り、他の女性を近づけないようにしていたけれど、今はカレンへの影響を考え、それはできないでいる。

 だから、教会側ではないと示すために、保守派の女性達をもてなさないといけないんだ。

 僕は安易に教会側につくことも、同じぐらい危険だと考えている。」

「そうなんですか。」

「面倒だろ?

 だから、次々女性が押しかけようとも、カレンが心配することは何も起こらないんだ。」

「そうでしたか。

 では、大丈夫だとカレン様に伝えますね。」

「ああ、頼むよ。

 カレンに嫌われたと思うと、僕の方が食べ物が喉を通らない。」

 そう言うとセオドア様は自嘲気味に笑った。

「わかっていると思うけれど、このことは他言無用だから、よろしくな。」

「分かりました。

 あの、一つだけお聞きしてもいいですか?」

「ああ、何だ?」

「セオドア様には、女性の噂がずっとあったとお聞きしています。

 亡き奥様がいらした頃も。」

 彼は薄く笑ったが、その奥にはかすかな哀しみが見えた。

「よく知っているね。

 エスター子爵夫人から聞いたのかな?

 その頃もずっとあったし、むしろ今よりも多かった。

 何しろあの頃は、教会が最も大切にしていた大魔法使いの女性と結婚していたからね。

 保守派は必死で愛人にしろと、女性を送って来ていたよ。

 僕の力がすべて教会に向くのを恐れたんだ。」

「だから、セオドア様はその中の一人を選び、愛人にしていたのですか?」

「いや、誰一人愛人になんてしていなかった。」

 短く、しかし静かに言い切った。

「でも、いらっしゃったと伺っています。」

「さっきも言った通り、愛人役を作り、そう見せていただけだ。

 あまりにも保守派が執拗でね。」

「…そのことを奥様には伝えなかったのですか?」

「妻は僕に愛人がいるかなんて、気に留めなかったさ。

 彼女は日々忙しく、魔法を使い、王国を守ることにすべてを注いでいたからね。

 僕は彼女に愛を伝えていたけれど、彼女にとって僕は、子供を成すための存在に過ぎなかった。

 僕は心の底から妻を愛していたけどね。

 話し過ぎてしまった。

 今のは聞かなかったことにしてくれ。

 …こんな話、君にするつもりではなかったんだけれど、どうも君には、ついつい本音を口にしてしまうようだ。」

「…そうですか。」

 気づけば私は立ち上がり、どうやって執務室を出たのかも覚えていないまま、ぼんやりとした足取りで自室へと戻っていた。

 そして、ベッドに腰かけ、先ほどのセオドア様の話を考え続けていた。

 彼がカレンのナニーである私に、嘘をつくとは思えないから、あの話の大部分は本当なのだろう。

 当時の彼が、私を愛していただなんて、知らなかった。

 だから愛人がいると聞いてからは、心のどこかで彼を責め、避け続けた。

 愛し合って結婚したはずなのに、いざ夫婦になってみれば、彼の周りにはいつも別の女の影があって苦しくて、魔法に没頭するふりをして逃げていた。

 私には使命があり、邸を空けることもしばしばだし、妻の務めの社交だってしていない。

 愛人がいても、愛されていないんだから、仕方ない。

 そう心のどこかで言い訳して。

 けれど、彼が言う通り本当は私を愛していたというのなら、彼は私に毒を盛った犯人ではないということだ。

 そう思えば少しだけ私の満たされない想いは、解消されていくのであった。

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  • すべての魔力であなたの元に    23.後始末

    「ローレッタ、お待たせしたね。 料理は美味しかったかい?」 客間の扉を開けると、彼女は空になったワイングラスを指で弄んでいた。 蝋燭の灯りがその紅い唇を照らし、少し膨れたように尖らせている。「もう、セオドア様ったら遅いわ。 一人で寂しかった。」「悪かったね。 どうしても君が必要だったんだ。」「まあ、嬉しい。 やっと私とお付き合いしてくれる気になったのね。」 ローレッタは媚びるように笑いながら、白い手を伸ばして僕の袖に触れようとした。 しかし、わずかに身を引き、静かな声で続ける。「悪いが、僕が考えていたのは、君が思っていたのとは少し違うんだ。 僕達が付き合っているように見せることに協力してくれたことは感謝している。 確かワグナーが間に入ったんだよな。」「ええ、そうよ。 ぜひ演じてほしいと言われてね。」「その他に何か聞いていたかい? 例えば、ジュリアがいなくなった後のこととか?」「いいえ、何も。 ワグナーさんは彼女が亡くなってからは、途端に連絡して来なくなったのよ。 私がいくらセオドア様をお慰めしたいって言っても、とり持ってくれなかったわ。」「そうか。 じゃあ、君はキャサリンのことも聞いていなかったのかい?」「誰それ? 私知らないわ。」「そうか、だったらいいんだが、実は僕に新しく好きな女性ができたんだ。 だから、今後、君と個人的に会うことはないだろう。 これは少しだけど、君への感謝の気持ちだよ。 受け取ってくれ。」 僕は淡々と告げ、小箱をテーブルの上に置いた。 ローレッタがそれを開けると、光沢のある宝石と金の装飾品がぎっしりと並んでいる。「ありがとう。 手切れ金ってわけね。」 ローレッタは俯きながら笑い、宝石を一つ指先で転がした。「そう思ってくれてかまわない。」「こんな物よりあなたが欲しかったのに。 だから、ジュリア様が私の邸に来た時、事後を装って追い返したのよ。」「そんなことを?」「ええ、ジュリア様は青ざめて帰って行ったわ。 その後すぐ亡くなって、私も少し反省したわ。 でも、謝らないわよ。 私は恋人のフリをする約束を守っただけだから。 私だってあなたが好きで協力したのよ。」「わかってる。 エントランスまで送るよ。 馬車を待たせている。」「ええ。」 玄関先の夜風に吹かれなが

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  • すべての魔力であなたの元に    22.セオドア様の逆襲

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